大海を悠々と泳ぎ、巨体から大きな潮を噴き上げるクジラ。中でも体重160トンにもなるシロナガスクジラは、地球上で最大の生物です。こんな大きさの生き物が人と同じ哺乳類であり、今も私たちと同じ時を生きているということが不思議なくらいです。また、深海をえさ場としているマッコウクジラは、海面から1000メートルもの深みに一気に潜り、長時間潜っていることができます。その潜水能力は、まさに驚異的です。

ずかんシリーズ
水口博也/文
小田隆/絵
木村敏之/監修
講談社
2022年9月、1900円+税
地球に生命が誕生してから40億年、さまざまな生き物がさまざまな進化の道を歩んできた中で、クジラはこのような巨大な体や特別な能力をどのように獲得してきたのでしょうか。この絵本は、そんなクジラの進化の道を美しい迫力ある絵でたどっていきます。
最初は今から1億年前の地球。空には翼竜、大地には恐竜、海には魚竜や首長竜の姿があります。でも、およそ9000万年前には魚竜が、6600万年前には恐竜が姿を消し、生き残った哺乳類のなかのあるものが、生活場所を海にも広げていったそうです。そんなふうに海の中で暮らし始めた動物がクジラの祖先だったとは・・・。
5000万年前には、川の中をオオカミに似たパキケタス(「ケタス」は「クジラ」の意味)が鼻先を水面に出しながら4本足で歩き回っている姿が描かれています。なんだか犬かきをしているようにも見えます。この姿から将来クジラになることはとても想像することができません。けれど、これがクジラの祖先だったことは、化石に残った耳の骨がクジラたちと共通した特徴を持っていることからわかるのだそうです。(化石の発見ってすごい!)
その少し後の時代に登場したアンブロケタス(「歩くクジラ」の意味)は、まだ4本足ですが、体が少し泳ぐのに適した形になってきていることがわかります。少しワニのようにも見えます。
さらに、その1000万年後(4000万年前)には大海原を泳ぎ回るのにふさわしい姿になったクジラが誕生していたようです。魚類や爬虫類とは違うことが、尾びれの付き方の説明でよくわかります。この時には、体全体が流線形に、後ろ脚は退化、前足は胸ビレに、尾の先は尾びれにと、陸上で暮らす体から海で暮らす体へと大きく作り変えていたようです。バンドウイルカとチーターの走る姿を重ねて描かれたページでは、胸ビレの中には5本指の骨が残っていることの解説もあり、体は変化しても同じ哺乳類の仲間だということがすんなりと納得できます。
そして、2500万年前には地球環境の変化に伴い、エサを効率よく獲るために歯が退化し、ヒゲ板という器官でプランクトンをこしとる「ヒゲクジラ」のグループが、1500万年前にはエコロケーション(発した声のはねかえってきた音で大きさ形などを知る能力)で深海の獲物を捕らえる「ハクジラ」のグループが広がっていったそうです。見開きページに大きく色分けされた図で、進化の広がりを改めて感じます。
最後に描かれているのは、現在の海の中。深海で大きな獲物ダイオウイカを捕らえるマッコウクジラ、アコーディオンのように喉元を広げナンキョクオキアミを大量に(一日に数トンも!)取り込むシロナガスクジラ、どちらも長い長い年月をかけてたどりついた姿なのだと思うと、クジラはもちろん、地球上で生きる全ての生き物の今ある姿の貴重さを感じます。
巻末には、本の中に登場したクジラの解説や資料となった化石が発掘された場所も記されています
著者の水口博也さんは、長年クジラを追い続け、たくさんの写真を撮り、古鯨類の化石が多い各国の博物館を訪ね、学者からも話を聞き、最新の科学に基づいてこのストーリーを作ったそうです。
遠い時代の海に思いを馳せながら、背表紙を広げ、そこに描かれたクジラの姿をじっくり眺めたくなる絵本です。
注)書籍P26に誤植。第3刷から修正するとのこと。
(誤)原生種→(正)現生種
(科学読物研究会 古屋ちえり)
*科学教育研究協議会(科教協)が編集する月刊誌『理科教室』の2023年4月号から、許可を得て転載したものです。
*出版社によるこの本の紹介記事は、下記のURLからご覧いただけます。
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000367291































