この本は、東京の西を流れる実際の多摩川を題材に、源流から河口まで案内する絵本です。著者は、今まで折りたたみ式の川の絵地図をたくさん作っています。著者の絵地図は、広げるととても長くなる楽しいものです。これを鳥瞰絵図といい、全国50ヶ所も作ったそうです。絵本はこれが初めてですが、やや大ぶりの本を見開きに広げた画面いっぱいに描かれる鳥瞰絵図はとても迫力があります。「低空飛行で見られる地形図」といえるでしょうか。
では、山のかみさまと、おつかいの男の子と一緒に、多摩川の河口までを見届ける旅に出ましょう。扉のページには水神社にお参りしている親子がいます、ここにしかけがありますので要注意です。
最初の絵図にはたくさんの山々が描かれます。画面の左はじに「たまがわげんりゅう」、「みずひ」という字があります。ここが源流の出発点ときめられています。近くに「さんせんぶんすいのひ」という文字もあり、ここに降った雨が多摩川、荒川、富士川に分かれていくというのです。中々壮大です。たくさんある山にも谷川にも名前がつけられているのも驚きます。ここはまだ山梨県です。このような風景は6場面も続きます。後半はほぼ平地で8場面、日本の川の特徴、山から流れくだっていく地形がよく表れているのではないでしょうか。たくさんの橋、観光地など、東京の学校の子ども達がいく遠足の場所などが書き込まれていますので、参考になると思います。
山仕事で暮していた人たちの家、ダムのため移転した人たちの家が山の上に描かれています。ダム施設や羽村の堰などは詳しく1ページを使っています。山の中を流れる多摩川、東京も自然がいっぱいなことがこれでわかることでしょう。身近なキャンプや川遊びの場所が多くなります。18ページ目、開けた扇状地と大きな町に出てきました。
川はまだまだ曲がりくねっています。川岸に沿って緑地が続きますが、ここは崖なのです。もう少し下流になると、すぐ水辺に出られるので、川は身近になります。31ページの「水辺の楽校」という形で最近始まった活動も絵の中に紹介されていて、丹念に取材をされていると思いました。グラウンド、車道が目立つ下流部分ですが、海が近くなって、広くなった川の中州は周りの密集にはない広い貴重な空間になっているように見えます。さて終わりのページで釣りをしている親子は?この本のもうひとつのお楽しみを探してみましょう。
私は長年観察会で訪ねることが多いのですが、この魅力あふれる本が大いに使われて、たくさんの人が、より深く多摩川に親しまれていくことを願っています。 小学初年から。 (『理科教室』2008年10月号掲載)
科学読物研究会 鈴木有子