AIやロボットに拒絶反応を示してしまう私は、表紙の分身ロボットの写真にもうさんくささを感じて、すぐに本を手に取る気になれなかった。数年前に老人ホームで見た愛玩犬ロボットを思い出して、切なくなってしまったのだ。。

吉藤オリィ/著
加藤悦子/文
こどもの未来社
2023年1月発行
1500円+税
でも、本文を読むにつれ、世間でいわゆるロボットと言っているものと分身ロボットの違いを知り、その世界にどんどん引き込まれていった。頭が古いのかもしれないが私が考えていたロボットは、人間がする仕事を代わりにやってくれる物、あくまで「物」だった。でも分身ロボットはロボットのむこうに、パイロットと呼ばれる「人」がいて、その人がロボットに対面している人とコミュニケーションを取る、そのための道具なのだ。もちろん、パイロットの指示で仕事もするのだが、あくまでロボットのこちらと遠くのどこかにいる人、人と人をつなぐことが基本なのだ。
最初に紹介されるのは、分身ロボットカフェ。ロボットがサービスをするカフェについて、以前テレビか新聞で紹介されたことがあった。ロボットを遠隔操作するのは寝たきりで動けない障害を持つ方達だとのことだった。その時はあまりピンとこなかったのだが、本書では実際にパイロットの皆さんの写真や住んでいる場所や生の声が紹介されている。筋ジストロフィーなどでそれまであれもできない、これもできないと諦めていた若者がこのカフェで働くことによって、こうすればこれができるのではないかと人生に前向きに取り組めるようになってきたというのだ。ロボットの向こうに確かに生の人、それぞれ個性や感情の異なる人がいるということが実感できた。このカフェ誕生には、ロボット開発者のオリィさんと交通事故で体が動かせない秘書の番田さんの何気ない会話があったそうだ。「秘書ならコーヒーくらい淹れてくれよ」「いいよ、じゃあ、淹れられる体を作ってよ」と。普通なら「ひどいことを言ってごめんなさい」で終わってしまいそうな会話だが、そこから、それなら体が動かない人でもコーヒーが淹れられるバリスタを作ろうという発想。そして、二人で研究を重ねて、ついにカフェを実現させてしまったことがすばらしい。
カフェを手始めに、オリィさんは障害を持つ人の声に答えるさまざまな分身ロボットを開発している。実際に私たちも役所や会社の受付で見かけるかもしれない。映画に出演したロボットもいたそうだ。なんと、小学校で子ども達と接して、相談に来る子にアドバイスをしたり、褒めたり時には叱ったりと大活躍の分身ロボットもいるとか。その向こうにいる人の顔を考えると、今盛んに話題になっているチャットGPTとは何という違いだろう。
このようなロボット開発をしたオリィさんとは、どんな人なのだろうとだれもが興味を持つことだろう。小さい頃から折り紙が好きで、自分でも創作折り紙を作るのに夢中になっていた工作好きの男の子。小学校高学年では不登校だったが、「虫型ロボット競技会」への参加を機に、ロボット作りに興味を持ち、工業高校へ入学した。高校での車椅子の研究から、障害を持つ人の相談を受けるようになったが、その悩みの多くは障害そのものよりもコミュニケ-ションがとれないことからくる個独のつらさ、だった。そこで彼は「個独を解消する」ロボットを作ろうと思い立つ。しかし、自分を振り返ると、友だちや先生、家族の励まし、人との出会いこそが孤独を解消してくれている、人を癒やせるのはAIではなく、人なのだということに気づいていく。そこから「心の車椅子」、体は自由でなくても心はどこにでも行ける装置を作る、分身ロボット開発が始まったのだ。
最新鋭の科学技術が戦争の道具に使われたり、私の中で科学への不信が増幅してきていた昨今だが、悪いのは科学ではない、物を作る際のコンセプトが大切なのだと気づかされた一冊だった。
(科学読物研究会 小川真理子)
*科学教育研究協議会(科教協)が編集する月刊誌『理科教室』の2024年1月号から、許可を得て転載したものです。
*出版社によるこの本の紹介記事は、下記のURLからご覧いただけます。
https://www.comirai.jp/view/item/000000000319

































