農家にとって頭が痛いのが雑草と害虫です。農薬を使えば害虫を退治できるものの、使い続けると害虫に農薬に耐える力がつき、さらに強い農薬が必要になってきます。農薬がかかった野菜は食べたくないという人もいます。そこで登場したのが天敵農法です。天敵農法とは、農薬のかわりに、生きものを利用して作物を守る取り組みで、日本では1990年代後半に始まりました。

谷本雄治/著
イシダコウ/マンガ・イラスト
小峰書店
2023年1月発行5200円+税
この本は、児童文学作家でもあり、農業専門の新聞の記者として長年全国各地の農家や研究所を取材してきた著者が、天敵農法をはじめ、農業を支える57の生きものたちの生態と知られざる活躍ぶりを、マンガや写真、イラストとともに楽しく紹介した本です。
第1章は「米作りをささえる生きもの」です。アイガモやフナのように、人の手で田んぼに放される生きもののほか、もともと田んぼにいるタニシやアマガエルなど16の生きものが登場し、それぞれのスゴ技を紹介しています。
第2章は「野菜・くだものづくりをささえる生きもの」です。アブラムシを食べるテントウムシ、アブラムシの体に卵を産み、孵化した幼虫がアブラムシのからだの中身を食べて育つアブラバチ、作物の生育を邪魔するハダニを退治するダニや、受粉を助けるハチなど27の生きものを紹介しています。
第3章は「土をつくる生きもの」です。ミミズ、ダンゴムシ、ふん虫ほか、土を作り、田畑の環境を保つ14の生きものを紹介しています。私たちの知らないところで、ムカデやシロアリなども農業を支えていることを教えてくれます。
各章にはそれぞれ「生きものパワー全開!!」「きらわれものの言い分!」「クローズアップ!」「いっしょに考えよう!」というページもあります。
「生きものパワー全開!!」は、特に農業の現場で多く活用されている10の生きものを、より詳しく取り上げています。いざ出番という時に実力を発揮してもらうための農家の前準備、一年の流れ、使う時のポイントや工夫、各地の農家の生の声も載っています。天敵農法を使った場合と使わなかった場合の比較グラフもあり、データから効果を知ることもできます。
「きらわれものの言い分!」は、ムシ好きの著者ならではのページです。益虫か害虫かは人間の都合によるものです。嫌われもののムシたちが、愚痴まじりに自分たちの辛さを語ります。ムシたちの会話から、実は生態系の中で重要な役割も担っていることを知ることができます。
「クローズアップ!」のページは、現代農業の最前線の情報ほか、田畑の生きものや農業にまつわる話題が紹介されています。著者の経験をもとに身近な道具を使った実験や観察の仕方も紹介され、子どもたちの自由研究のヒントになります。
各章の最後の「いっしょに考えよう!」は農薬、害虫、農地について、筆者の視点から問題提起をしています。簡単に答えを出せるものではありませんが、みんなで考えたい問題です。
欄外の豆ちしきも面白く、それぞれの写真に添えられたキャッチコピーもユニークです。ところどころにダジャレもあり、クスッとさせられます。ぜひ隅から隅まで読んでください。この本の面白さが倍増します。 ところで、この本に登場する農家の方は、「生きもの無しの農業は考えられない」とおっしゃっています。でも、生きものや自然を相手に最初から思うような成果を出せたわけではありません。何度も失敗し、それでもあきらめずに挑戦し、今につながっているのです。農家の悪戦苦闘ぶりは、同じ著者の『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)に書かれています。『ぼくは農家のファーブルだ』は1999年発行です。当時は輸入が許可されていたハチの中には、日本の自然環境に影響があるとの懸念から現在規制され、日本在来種に切り替えが進んでいるものもあるそうです。天敵農法はまだこれから発展することも多いでしょう。農家の苦労や努力、喜びややりがいを知ると本書の読み方も深まります。この3冊もぜひご一緒に。
(科学読物研究会 竹内純子)
*科学教育研究協議会(科教協)が編集する月刊誌『理科教室』の2024年4月号から、許可を得て転載したものです。
*出版社によるこの本の紹介記事は、下記のURLからご覧いただけます。
https://www.komineshoten.co.jp/search/info.php?isbn=9784338081733
































