昨年末、日本中が、二人の日本人化学者(鈴木 章 と根岸栄一)がノーベル賞の同時受賞で沸き立ったことは記憶に新しいですね。この方たちの受賞も分野は違いますが、「しょくばい」(触媒)の研究に対してでした。
著者の藤嶋 昭は、光触媒の発見者です。1967年東京大学の大学院で、電気分解装置のような実験装置を作り、片方に白金、もう片方には酸化チタンを入れ、太陽光を当てておきました。すると、酸化チタンからは酸素ガスが白金からは水素ガスが出てきましたが、その水素の量はほんの僅かで利用できるほどではありません。研究を進めるうち、酸化チタンの塊に太陽光を当てるとふしぎな現象が起きることがわかってきました。
太陽の光を受け、エネルギーを摂り込んだ酸化チタンは強力になり、酸化チタンに付いたり近づいたものをバラバラに壊してしまいます(これを酸化分解という)。このとき自分自身はなんら変化を起こしません。このように、何かのエネルギーを受け自分はなんら変化をせず他のものに作用を及ぼすものを触媒といいます。
そこで、車の多くとおる道路(高速道路)の壁に酸化チタンを混ぜた塗料を塗り、道路などに酸化チタンを混入したタイルを敷いておけば、ススや油の汚れ、排気ガスなどを太陽光で酸化分解します。更に、すばらしいのは超が付くほどの親水性(水となかよし)があるということです。車のサイドミラーや道路の曲がり角などに設置されているカーブミラーに、これを利用すると曇らないし水滴もつかないのです。ビルの壁の塗料に酸化チタンを入れ、窓ガラスにも酸化チタンの入ったガラスや皮膜を貼れば、壁や窓ガラスの汚れは雨で常に洗い流され、いつもピカピカ、掃除もいらなくなります。
この酸化分解と超親水性の2つの働きで、汚れを落としていることを、分かりやすい絵と文章で説明しています。
酸化チタンは世界中に存在し、安価で昔から使われていて人に害のない安全な物質であることも語られています。
ところで、10年程前はビルの屋上から窓拭き用のゴンドラが下がっていて、盛んに窓拭きをやっている光景を目にしましたが、いつの間にか見なくなったなぁ、と思っていました。それより何よりどんどん高いビルが建ち、窓ガラスの掃除はどうするのかしら?と漠然と考えていました。窓ふきはもういらないとはびっくりです。
大人の方には、以下の本もお薦めです。『光触媒が日本を救う日』ー独創からの反撃ー/岸宣仁/プレジデント社/2003年
科学読物研究会 瀬間幸子