キュリー夫人といえば夫のピエールとの放射性物質の研究で夫妻でのノーベル賞受賞で有名で、颯爽とした勤勉な女性科学者というイメージがあるかもしれません。でも家庭では、母として二人の娘達の成長に合わせた学びの機会を与えました。数学の才にも恵まれた姉のイレーヌは科学者としての道を歩み、のちにノーベル賞を受賞し、評論家として活躍した妹のエ—ブは母の伝記を書きました。
この本は、キュリー夫人の授業を受けた生徒の一人、イザベル・シャヴァンヌのとったノートをもとに書かれています。それはのちに「共同授業」と呼ばれることになる教育で、キュリー夫人の発案で仲間の科学者、しかも当時の第一線の研究者であるジャン・ペランらと分担して、10歳前後の自分の子ども達対象に行われました。
てんびんを使って物の重さをはかるにも、子ども達に実際に触らせ、はかる前にてんびんの動き方がどうなるか質問して予想を聞いてから始めたり、気圧計を工作させたり、キュリー夫人と子どもたちが喜々として、この授業の時間を楽しんでいる様子が読み取れます。このように指導者の質問と、子ども達が実際に手を動かす実験とを繰り返して、考察し、解説するその手法は、指導者からの講義を中心とする教育が主流であった当時、とても画期的なものでした。そして、それは自然科学の分野だけでなく、文学や芸術にまで多岐にわたり、基本的なものの見方を育むものでした。これは現代の教室でも、また家庭でも、身近な現象を理解することに通じるものではないでしょうか。
この授業は2年ほどで終了しますが、教える立場の親たちにも、学ぶ子どもたちにも印象深いものであったそうです。子どもたちと向き合うキュリー夫人の姿から、母親としてだけでなく、教育の現場での大人としてのあり方も考えさせられます。
「じゃあ次に楽しい実験をしようね…」とキュリー夫人に誘われて、水とアルコールの間に浮かぶ油の黄金ボールをうっとりと見つめる子ども達。こんな風に、知識だけでなく美しさを感じることも伝えられるようになりたいものです。
科学読物研究会 二階堂恵理