この本は、1973年に岩崎書店から「少年少女歴史小説シリーズ」の一冊として出版されました。長く絶版になっていましたが、2006年にちくま学芸文庫から復刊された本です。歴史小説ですから、普段紹介する本とは、少し趣が違うかと思います。が、この本は数学教育界で受け入れられた本でもあるそうです。
主人公の千葉あきは、上方の算法を学んだ父の千葉桃三から手ほどきを受け、上達していきます。そのあきが奉納された算額の誤りを指摘することから話が始まります。算額の話を聞きつけ、姫君の指南役に抜擢されそうになり、また流派の違いから妨害されたりします。そんな中、算法が好きで、ひたむきに学ぶ父と娘の姿は変わらず、和算の本を出版することになります。
この『算法少女』という題の本は、安永4年(1775年)に実際に書かれた和算書の名前でもあるのです。作者の遠藤氏はこの和算書のことを、幼い頃父親から聞いたそうです。その後、和算書『算法少女』を調べるうちに、物語が育っていったそうです。
1627年に発行された『塵劫記』がベストセラー・ロングセラーになり、関孝和が活躍した江戸中期を経て、和算がブームとなった江戸後期、そういう時代に父娘の共著とはいえ、女の子が和算の本を出版したことにまず驚き、うれしくなります。
和算書『算法少女』は、国立国会図書館のデジタル化資料や同じちくま学芸文庫の『和算書「算法少女」を読む』(小寺裕)の巻末の資料で見ることができます。また上記の本には、和算書『算法少女』にある全30題の解説が載っています。あきに挑戦してみませんか?
科学読物研究会 坂下智婦美