科学読物研究会ってこんな会です。
当会は、1968 年に「子どもたちに良質な科学の本を」という思いではじまり、2018 年に創 立 50 周年をむかえました。当時は、子どものための科学の本がまだまだ少ない時期でした。よ り良い科学の本を作りたい、読みたい、楽しみたいという仲間は全国にひろがり、それととも に科学の本もたくさん出版されるようになってきました。現在、会員は全国に約 300 人います。
主な活動の内容は以下のとおりです。どの会も、ほぼ毎月1回、おもに都心部でひらかれています。
◉例会:
自然観察会、出版社訪問、著者の講演会などです。家族で参加したい方どうぞ!
◉新刊研究会:
毎月新しく出版される科学の本に目をとおし、意見をかわします。 その数 100 冊以上!だれより先に読めるのが魅力。
◉くらべよみの会:
テーマにそった科学の本のくらべ読みをし、切り口のちがいを味わいます。(テーマの例 水・算数と数学・ヘビとトカゲ・ミクロの世界 など)施設の見学会もあり。
◉本の紹介活動:
雑誌やメールマガジンで本の紹介をしています。
◉会員メーリングリスト:
・こんな本探してます。
・科学あそびの材料どこで手に入りますか?
・こんなイベントあります。
・この本、面白かったです。
……など、メールを使用して会員間の情報交換を行っています。
集団の力でいい科学読物を 吉村証子
私は科学読物が好きで、大切だと思い、互いに育児に忙しい友達の理科系卒の母親と、主に読書会の形で、科学読物研究会を長いこと続けてきました。
1962年から三鷹に住み、三多摩地域で盛んな子どもの本の普及運動を知りましたが、児童文学に偏っているのが残念だと思いました。私も会員の一人である日本子どもの本研究会や、日本親子読書センター等の、子どもの本の研究・普及運動と科学教育研究協議会の、科学教育・科学読物の研究とが結びつくと、大きな力になると思いました。
それで、両方によびかけて、去年の九月から、新しい形で研究会を始めることができました。全国各地でも両方が協力すると普及が発展すると思います。
ソビエトで革命後、ゴーリキーが中心になって科学読物を重視し、励まし、集団の力で普及し、イリン、ビアンキ等も育ったと思います。今の日本の子どもに、私達も、集団の力でいい読物を、たくさん与えたいと思っています。
(1969年7月25日発行 科学読物研究会年報より)
吉村 証子(よしむら あかしこ、1925年(大正14年)7月3日 – 1979年(昭和54年)4月23日)は、日本の科学史家、児童科学読物作家。
東京生まれ。福岡、東京で育ち、1943年津田塾専門学校物理学科卒、1951年東京大学理学部地球物理学科卒。普連土学園、神田女学園で講師をしながら平凡社の『理科事典』『科学技術史年表』の編集・執筆に当たる。1955年弁護士・吉村節也と結婚。1956年津田塾大学講師となり亡くなるまで科学史を教える。1967年日本子どもの本研究会を設立、副会長、1968年自宅で「科学読物を読む会」を開催、科学読物研究会を作る。吉村証子記念会は、1981年から96年まで吉村証子記念日本科学読物賞を授与していた。
——Wikipediaより
科学読物研究会の設立の目的と方針 中川宏
科学は芸術とおなじく人間の精神の所産です。科学の先駆者はそれぞれの時代において、時代精神の先がけとなり、自然の法則を引き出し、人間の認識を変革してきました。
この人類の財産を芸術と同様に愛し、科学を守り、そして発展させていく世代を育てていきたいと思います。
会の発足に際し、このことに初心が込められていると思い、その精神は今後も生き続けていくと思います。
具体的には子どものための科学書の現状を分析すること、そのことから科学読物の新しい展望を持つこと、そして、そのためには書評が確立しなければならないと思います。
(科学読物研究会20年史より要約)
科学の本、読んでみて 坂口美佳子(科学読物研究会運営委員長)
「宇宙には 空気がなくて真空といわれています。では真空とはどんなものか実験してみましょう! 入れものの中に温度計を入れて空気を抜くと温度は上がると思う? それとも下がる?」
図書館に集まった40人ほどの子どもに問いかける。手元にあるのは温度計と煎餅などを保存するプラスチック容器。空気を抜く装置がついている。「下がる! 飛行機に乗ると寒いもん!」「え〜、変わらないんじゃない?」。思い思いの予想を立てて容器をのぞき込む。果たして結果は——。
会場に関連書用意
これは科学あそびの出前講座の1コマ。科学読物研究会の活動の一環だ。本を通じて 子どもたちに自然の面白さを伝えるのが目的だから、会場ではもちろん関連書を紹介する。宇宙がテーマなら加古里子著「宇宙」、山本省三著「もしも宇宙でくらしたら」など30冊程度。実験後に頭の中が「?」と「!」でいっぱいになった子どもたちは我先にと借りてくれる。研究会は1968年、科学史家の吉村証子さんが立ち上げた。吉村さんは東大地球物理学校卒業後、津田塾大で科学史を教えた。子育てをする中で児童文学に比べて科学読み物が少なすぎると残念に思い、理系の母親や編集者、教師などを誘って自宅で勉強会を開いたのがはじまりだ。
その翌年、アポロ11号が月に着いた。科学技術への関心が高まる中、福音館書店が月刊「かがくのとも」を創刊。72年に「岩波科学の本」(岩波書店)、73年に「小さいかがくの本」(偕成社)と次々に子ども向けシリーズが登場していく。
歩を合わせるように会の活動も広がり、81年、日本科学読物賞を創設。類例のない賞で注目され、15年続いた。当初17人だった会員は280人ほどになった。19人の運営委員が持ち回りで会長を務める仕組みで、今年は私の番だ。
自主保育の活動で門戸
入会したのは31年前。大学卒業後、東京都の公務員になったが、2人目の息子が生まれたあとに退職した。それから頭を出しはじめた自主保育の活動で研究会を知り、参加を願い出た。高校時代の元素記号でつまずいた文系人間にとってはちょっとした挑戦だったが、あっという間に科学の面白さにはまった。月をながめたあとは板倉聖宣著「ぼくがあるくと月もあるく」を、オムレツを食べたら伏見康治・満枝著「卵の実験」を息子たちと楽しんだ。
研究会の活動の根幹となるのは 月1回の新刊研究会だ。多い月は150冊ほどを15人ほどで検討する。推薦者が多い本は毎月の会報で丁寧に紹介する。参考にしてくださる図書館も多いから、みな真剣そのものだ。
年10回の例会では有識者を招いた講座などを企画している。中でも地学の専門家による化石発掘は人気がある。トンカチで石を割るとカニの脚や貝が入っていて、子どもも大喜び。すかさず化石の本を紹介して興味を広げる。
鍛えられながら勉強
活動の中でも特に私が力を入れてきたのが、科学遊びだ。研究会が月に1度開く科学あそびの分科会で情報交換し、それぞれが図書館や児童館に赴く。はじめのうちは子どもにへそを曲げられることもあったが、試行錯誤を繰り返しながらだんだんコツをつかんだ。プリントを作るため事前にたくさん勉強する。それでも答えられない質問はあって、 そんなときは正直に謝る。私は学者でもなんでもないただのおばちゃんだから、子どもに鍛えられながら勉強の繰り返しだ。
努力の甲斐があって方々から声がかかるようになり、最近は1人で年に270回ほど出向いている。参加者の中には研究の道に進む人もいてとてもうれしい。
会員は北海道から九州まで、主婦や教師、図書館員などと幅広く、それぞれが読み聞かせなどの普及活動を続けている。設立から半世紀がたち、世の中は大きく変わったが、子どもたちの好奇心は変わらない。彼らが科学の不思議に触れるきっかけを、これからも作っていきたいと思う。
日本経済新聞2019年6月26日全国版朝刊の文化面より引用