「やまおやじ」ってなんでしょう? 幹が太くなったちょっとへんてこりんなクヌギたちのこと。なんでこんな形の木があるのでしょうか?
ここは、長い間、人がシイタケ栽培の「ほだ木」を採る場所として利用してきたクヌギ林です。伐られて、その上に新しい芽が生えて、それが育って、また伐られての繰り返しの中で根株はこんな形になりました。作者はそんなクヌギのことを「やまおやじ」とよんでいるのです。
作者はまるですっかり「やまおやじ」の気持ちになって、周りで起こること、林の命の循環を話してくれます。大判(縦27センチ)カラーで迫力があり、新しい発見のある写真で構成されています。
「やまおやじ」の詳しい由来はこの本には書かれていません。けれど、クヌギの顔のような写真を見たら、子どもたちは不思議な気持ちになるでしょう。そして「やまおやじ」は子どもたち大注目のカブトムシが集まってくる場所です。他に、背中にとげのあるアリが群れでひなたぼっこしている姿、セミの羽化、オトシブミ等の昆虫、けものの骨…など興味をひきます。春から冬まで季節を追って進行し、秋にはたくさんの丸いどんぐりが子どもたちを林へと誘っています。写真を眺めるだけなら学齢前の子どもから楽しめます。よく理解するには小学校低学年くらいから。詩情が感じられる文章なので大人にもおすすめです。
作者は、滋賀県の琵琶湖のほとりにアトリエを構え、活動されていることが知られています。琵琶湖で魚をとりながら自然の中で暮らす人を描く『おじいちゃんは水のにおいがした』(今森光彦/著 偕成社 2006)や、一般向け『萌木の国』(今森光彦/著 世界文化社 1999)を読むと、こんなにも豊かで人の暮らしと結びついた里山があるのかと、うらやましくなりますが、全国には里山が残っている場所が少なからずあります。それを取材した『NHK ニッポンの里山—ふるさとの絶景100』(今森光彦・NHK「ニッポンの里山」制作班 NHK出版 2014)も出版されています。
近くにどんな里山があるか、住んでいる生き物、人との関わりはどんななのか探しに行きませんか。
科学読物研究会 中野陽子