旅の始まりは雨。雨粒が集まって海に流れ、太陽の熱によって水蒸気になり、雲ができてまた雨が降る過程が詳しく描かれています。色彩豊かな紙面に、しずくや水たまり、水しぶきなど、水のさまざまな姿が丁寧に描かれています。海の水の冷たさや大きなうねり、日差しの暖かさや風の流れが伝わってきます。水蒸気になって大空を旅する気分を味わうことができるのは絵本ならではのことでしょう。
水の旅は海や空だけではありません。土中の栄養を含んだ水は植物に吸い上げられ、葉から蒸発していきます。私たちが飲んだ水も体のすみずみまで栄養を運び、汗や尿になって外に出ていきます。本書は、水を主人公とすることで、地球上の自然現象やいのちのつながりを分かりやすく説明してくれます。そして、水は姿を変えながら旅を続けているだけで、太古の昔から増えも減りもしない有限な資源であることを教えてくれます。
巻末には6ページに渡って解説があります。地球上にいつ頃から水があったのか、水に旅をさせている原動力は何なのか、水と人の生活とのかかわりや、水から分かることなど、宇宙物理や熱力学、地理や歴史学、生命化学に至るまで、読者を科学の旅へも案内してくれる本です。
科学読物研究会 中川僚子