表紙に映し出されたまっすぐな茎、その両側には不思議な球体がついていて、よく見ると、その中からさかさまの顔がこちらをのぞいています。これが、みずたまレンズ。
この本で、写真家の今森光彦さんは、いろいろなみずたまの世界を見せてくれています。クモの巣にびっしりとついたみずたま、アジサイについたみずたま。細長くしたたり落ちた水が飛び跳ね、みずたまにもどる瞬間は不思議で神秘的です。人間にとっては小さなみずたまですが、虫たちにとってはとても大きな水の球にうつっていることでしょう。自然の中のみずたまは、いろいろな大きさがあるけれど、光が水玉に反射して、どれも美しく、きらきらとかがやいています。
また、たくさんのみずたまは、別の景色を見せてくれています。みずたまのついた茎や花の表面が、顕微鏡をのぞいたように大きく映っていたり、みずたまの中に遠くの景色が閉じ込められていて、まるで雪がふらないスノードームのようです。しかも、その景色はよく見ると逆さまです。
なぜ遠くの景色は逆さまにうつるのか?なぜふった雨は落ちないで茎や花びらの上にとどまることができるのか?その答えは、本には書かれていません。自然の中で、みずたまがつくりだすありのままの世界を、写しとっているだけです。だからこそ身近な大人たちが、子どもといっしょにみずたまレンズを見つめて、不思議な世界を楽しんでほしいと思います。
本を読み終えて、みずたまを見たくなりました。雨がふりそうにもないので、花瓶の花に霧吹きで水をかけてみました。赤いバラの花びらには、うっとりするくらいきらきら光るみずたまレンズがたくさん生まれました。
科学読物研究会 大澤倫子