「ここに茶碗が一つあります。中には熱い湯が一ぱいはいっております。」から始まる短いエッセイです。さて、みなさんはこの一杯の茶碗の湯から、何を見、どんな疑問を持ちますか?
陶器の好きな人はどこの陶器か?また、模様などに目が行くかもしれません。また水にこだわりのある人は、天然水かな?水道水かな?と思うかもしれません。このエッセイは、その後、こんな風に書かれています。
「ただ一ぱいのこの湯でも、自然の現象を観察し研究することの好きな人には、なかなかおもしろい見物です。」
どんな見物があるのでしょう・・。それはとても驚きに満ちたものです。湯気から始まり、庭先、上空、地球上の気流へと話が続きます。一杯の茶碗を見つめていたはずが、いつの間にか、宇宙から地球を眺めている・・そんな気分です。
作者の寺田寅彦は明治・大正・昭和に活躍した物理学者であり、随筆家・俳人です。随筆には、見慣れたものにも興味を持って、観察し考察することによって、科学の法則がわかるというものが多くあります。
また同じシリーズの『雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集』(池内了編)には、「『茶碗の湯』のことなど」というエッセイがあり、寺田寅彦の弟子である中谷宇吉郎が、「茶碗の湯」が発表された経緯や解説を書いています。ぜひこちらも手に取ってみてください。
科学読物研究会 坂下智婦美