エジプトのピラミッドのそばには、必ず、王墓を守るかのように「スフィンクス」という人間の顔をしたライオンがいます。この「スフィンクス」は、ギリシア神話においては、テーベ市の近くの岩の上にいて、そこを通りかかる旅人にクイズを出していたと言われています。
「朝は4本足、昼は2本足、夜になると3本足で歩くものは何か」
みなさんは、クイズの答えがわかりますか。スフィンクスは、残酷にも、このクイズに答えられない旅人を次から次へと殺して食べていたと言われています。
そこへやって来たのが、あの有名なオイディプスです。オイディプスはスフィンクスの謎を、あっさりと解いてしまいます。
「それは人間である。」
私たち人間は、赤ん坊の時には4本足でハイハイして歩きます。成長すると、2本足で直立歩行をするようになります。そして、やがて老齢になると、杖をついて3本足で歩くようになります。
謎を解かれてしまったスフィンクスは、自ら谷に身を投げて死に、二度と現れることはなかったと言われています。
みなさんは、正解がわかりましたか。
このクイズについては、私たち人間にとって、一番わからないものは、自分自身なのだということを教えてくれているのだという解釈があります。そうです。確かに、自分自身を知るということは、とてもむずかしいことです。
わたしたち人間は肉体をもっています。その肉体が物理的にどのようにできているかを知る方法はいろいろありますが、その一つが「解剖」です。
「系統解剖の目的は、ヒトのからだを知ることである。人体は、じつにさまざまな構造からできている。骨だけだって、二百くらいある。筋肉なら六百、名前のついている神経や血管も、十分そのくらいはある。そうしたものを、一つ一つていねいに見ていく。それが系統解剖である。」
この本は、私たち人間を「物」としてとらえる方法を採った時に見えてくる世界を教えてくれます。具体的に、現実的に、実証的に、「知る」という方法、自然科学の方法について、教えてくれます。
「心とは、生物学で言えば、なんだろうか。これは、脳の働きである。
脳の働きと言うと、計算問題を思い出すかもしれない。そんなことは、脳の働きのごく一部である。じつは、人間のすること、考えること、それはほとんどすべて、脳の働きなのである。」
科学読物研究会、 根本行雄