東京上野の国立科学博物館は、みなさんも一度は行ったことがあるのではありませんか。ここは130年以上もの歴史を持つ、日本で唯一の国立の総合科学博物館です。所蔵する標本資料は、自然史(動椊物学、地学、人類など)と科学技術史のさまざまな分野にわたり380万点以上と膨大な量です。このなかで1万4千点ほどが、2004年にオープンした地球館と、2007年にリニューアルオープンした日本館で常設展示されています。
そうした標本から、日本の自然環境や、わたしたちの祖先がいろいろな創意工夫で生み出したすばらしい文化を知ることができます。この本は、数多くの標本のなかから30点を選んで、それを調査研究している研究者が解説しているものです。一つひとつが独立したテーマなので好きなところから読めます。
絶滅したニホンオオカミをはじめ、巨大なダイオウイカ、生きている化石シーラカンスなどの珍しい動物について、それぞれ標本を入手するまでのエピソードや展示の工夫などを写真とともに解説していて、興味を引かれます。日本館前の屋外に展示している全長30メートルのシロナガスクジラの実物大レプリカは大きさ、体色、細部の形、どれをとっても剥製標本より実物そっくりです。
また、恐竜やアンモナイトなど古生物についても多くの興味深い話が書かれています。人気のトリケラトプスは、発見されたときの横たわった姿勢で実物の化石が展示されています。二足歩行する恐竜と四足歩行するトリケラトプスなど角竜の違いは、ヒジとヒザの関節の違いからという話や、フタバスズキリュウの化石を発見した時のエピソード、恐竜のように見えるが実は鯨類だというバシロサウルスの吊前の由来など興味がつきません。
江戸時代に発展した精密技術の代表として、伝統的な「からくり人形《の茶運び人形をとりあげ、その精巧なつくりは時計の機構を応用していると言います。時計技術そのものも日本独自に発展し、昼と夜の長さが季節ごとに変化する万年時計をつくりました。
こうしたさまざまな標本はまさしく日本の宝物といって良いでしょう。博物館が単なる標本展示ではなく、その背後にある自然の摂理を理解することが大切です。また、それを科学的に解明しようとする研究者たちの地道な努力のたまものだと気づきます。
科学読物研究会 福田晴代