人喰いザメ「ジョーズ」の映画で有名なホホジロザメ「ホオジロサメ」の生態を描いた絵本です。オットセイに気づかれないように真下から一気に上昇して噛みつく場面は迫力満点です。
「ホオジロサメ」は和名で、「ホホジロザメ」が正式名称です。背が灰色で腹が白いのは、背中から見下ろすと灰色が海の色に溶け込み、下から見上げると白が空の色に重なり、他の魚に見え難いから。独特な鱗、微弱な電気を感知できる感覚器、抜けてもすぐ内側の歯が出てくる仕組みなど、ホホジロザメの生態には不思議がいっぱい詰まっています。この絵本は、迫力ある絵と簡潔な解説で、ホホジロザメのことが分かる魅力的な絵本で、小学生から大人まで楽しめます。
特に注目すべき特徴は、卵胎生という生殖の仕組みでしょう。ホホジロザメのメスは、交尾した後に子宮内に卵を産み、子宮の中で胎仔が孵化します。孵化した胎仔は、まず、母ザメが子宮内に分泌するミルク状の液体(子宮ミルク)を飲みます。その後、母ザメが大量の卵を子宮内に供給し、胎仔はその卵を食べて育つのです。胎仔の胃が食べた卵で満たされてパンパンに膨れている絵は、圧巻です。1年もの間、母ザメの腹の中で育った子ザメは、出産時には大きさが120㎝ぐらい、鋭い歯も備わっていて、すぐに独り立ちします。そんな子ザメも他の魚同様に、他のサメやシャチに襲われ、命を落とすこともあるそうです。「運よく生き残ったサメだけが、おとなになれるのだ」という自然の厳しさには驚くばかりです。
(科学読物研究会 中村涼子)