地球の直径(およそ1万3千km)を1mmとしたとき、1ナノメートルは、大型のトラックくらいの大きさです。この本の著者である浜松医科大学の針山孝彦教授は、生き物の体の細かい形を生きたまま観察して、体の仕組みや役割を見ることで科学の研究に役立てたいと考えました。
しかし、電子顕微鏡で観察する際、空気や水のない真空の状態にするため、生き物が死んでしまうという問題がありました。それでも諦めずに実験を重ねるうちに、ショウジョウバエの幼虫の体の表面を覆うねばねばが、宇宙服のような役割をし、真空状態の中でも生きていることを発見します。これをヒントに、「ナノスーツ溶液」を開発し、多くの生き物を「ナノスーツ法」を使って、生きたまま観察することに成功しました。
生き物が持つしくみを、ものづくりにいかそうという考え方を、「バイオミメティクス」といいます。「ナノスーツ法」を用いた研究により、水をはじくハスの葉の表面の構造が解明され、水をはじく塗料や、ヨーグルトのふたの開発に活用されました。また、ヤモリの指先が壁にはりつくことにヒントを得て、粘着剤を使わないで高い接着力をもつヤモリテープが試作されています。
「バイオミメティクス」で、未来をより良いものに変えられる兆しが見えてきました。写真やイラストによる解説が豊富で、小学校高学年から手に取りやすい科学読物です。
(科学読物研究会 八木わか菜)