楽しく読める〈酸素の発見物語〉である。一般に原子分子の話は,目に見えない世界を語るだけに初めて学ぶ者にとってはなかなか理解しにくい。しかし,〈酸素〉は,私たちの生活に一番密着した原子である。この本は,〈燃焼〉という現象から〈酸素の存在〉をときあかしていった科学者の長い長い発見物語である。
はるか昔の祖先たちには,〈火は「うなりをあげる怪物」〉に見えた。しかし,人類は一つ一つその怪物のなぞを説いていった。科学として〈空気〉をまず取り上げたのはかのダ・ヴィンチだという。しかも彼は生き物も〈空気〉を取り込んで呼吸をしていることをつきとめていた。中盤は,いよいよ想像を駆使して酸素原子の鍵をひもといていく科学者の話が語られていく。これがまたわくわくして読める。最後には呼吸や光合成,オゾンの話まで説いて終わっている。
文中に「私たちが毎日見ている火は,酸素がほかの原子と結合した喜びの表現なのだ」と書かれている。この本を読み終えると,目に見えぬ原子たちが親しみのある〈生き物〉として浮かび上がってくるから不思議だ。
ゆっくりと自分のペースでイメージを広げながら読むといい。〈酸素原子〉たちの存在が実体として見えてくる。中学生からのお薦め本である。
科学読物研究会 西村寿雄