中谷宇吉郎という実験物理学者の名前を聞いたことがありますか。中谷博士は、1930年に北海道大学で仕事をするようになってから、1962年に61歳でなくなるまで、雪や氷の研究を続け、世界で初めて、雪の結晶を人工的につくることに成功しました。この本は、博士が生涯に30冊以上出版したエッセイ集の中から、中学生ぐらいの子どもが読んで楽しめる21編を集めてあります。
雪の結晶は六角形ですが、針状のものから、板状のものまで1つとして同じ形の物はありません。その形を決めるのは、結晶ができるときの気温と水蒸気の量ということを、博士は何年もの実験によって突き止めました。「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残しています。
「雪を作る話」「低温室だより」という2編には、人工雪の結晶をつくり、どのような手順で結晶のできる条件をつきとめたか、実験の様子がわかりやすく書かれています。また、「私の履歴書」には、子ども時代から大学で寺田寅彦(『茶碗の湯』等のエッセイを残した物理学者)に出会って、実験物理学の道を志すまでがまとめられています。博士の人となりと、研究の楽しさが伝わってきます。ほかにも、線香花火や霜柱など、日常の科学に目を向けたエッセイもあります。わかりやすく書かれた科学のエッセイを楽しんでください。
あわせて、『紋切り型 雪之巻』下中菜穂著、エクスプランテもどうぞ。江戸時代のいろいろな雪の結晶の切り抜きかたの紹介だけでなく、『北越雪譜』や『雪華圖説』など、江戸時代に書かれた雪の結晶に関する本の紹介もあります。また、白、水色、青、紺、黒色の和紙の折り紙もセットになっていて、すぐに切り紙が楽しめるようになっています。
科学読物研究会 坂口美佳子