2022年に『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』*1(以後『LIVE』)が発売されました。本書は、『LIVE』作りに没頭した昆虫学者・丸山宗利さんと、昆虫図鑑への熱い思いをもった総勢50名の仲間の1年間の奮闘記です。

丸山宗利/著
幻冬舎
2022年9月発行
1200円+税
『LIVE』は、「前代未聞の奇跡の図鑑」とうたっています。そして、中の写真は、今までの図鑑より、生き生きしていると感じました。その理由は、7000種もの昆虫を生きた状態で新規撮影した中から、2800種を厳選し、全て白バックで掲載しているからです。今までの昆虫図鑑のほとんどが、標本の写真や、背景が写り込む生態写真を使っているのに対し、「生きた色と形」が伝わってきます。中には、「ガッケンホソカワゲラ」という製作過程で発見された新種も含まれています。
図鑑の制作は、まさにコロナ禍。しかも製作期間は約1年!大型昆虫ばかりでなく、ハエや2mmくらいのアブラムシも撮影しました。想像を越える困難ばかりなのに、図鑑に携わった人々のワクワク感が伝わってきます。それは、それまでの経験と知識を分かち合いながら製作することで、技術の向上だけでなく、貴重な経験になったからだと推測できます。
例えば、昆虫の発生する時期を逃さず撮影できたことも、蓄積された知識、経験、熱意の賜物です。それぞれの昆虫にすごいエピソードがあり、図鑑に載せることができなかった貴重な昆虫たちも、本書には写真入りで紹介されています。
若手への継承も、うかがわれます。『LIVE』表紙は、カブトムシがノコギリクワガタを抱え込む臨場感ある写真です。20代の若手写真家の法師人響(ほうしと・ひびき)さんが撮影しました。彼は高校時代に丸山さんの著書に夢中になり、そのころから憧れの人だったとか(『驚異の標本箱-昆虫-』参照)。本書には、若気の至りと思われるエピソードもありますが、今後の成長、活躍が楽しみです。
丸山宗利さんは、九州大学総合研究博物館准教授で、NHKラジオの子ども科学電話相談回答者でもあります。多くの昆虫の本にかかわっており、多彩なテーマ、冊数の多さに驚かされます。本書の「おわりに」を読んで、その理由がわかりました。本の製作や昆虫の普及活動への熱い思いと、そのきっかけとなった出来事など何しろ、まだだれにも言ってなかったことなど、心の内を赤裸々に書いているからです。ぜひ、最後まで読んでください。
昆虫好きの中学生に、本書をすすめたところ、3週間かけて読んできました。「丸山先生って本当にすごい人だ。コラムもすごく良かった。写真も良かった。若い人が参加しているのも希望になった。『LIVE』を買ってもらい、照らし合わせながら読んだ。」と、話してくれました。
フリガナがないので、中学生以上が対象ですが、写真が多く、わかりやすい言葉が使われています。昆虫に興味がない人にも図鑑制作のお仕事ノンフィクションとして、読んでもらいたい一冊です。
また、『LIVE』と同時期に丸山さんを中心に製作された、ほかの2冊の製作秘話も紹介されています。『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』*2(以後『GET』)と、標本の深度合成撮影をした昆虫の微細構造の写真集『驚異の標本箱-昆虫-』*3です。
私の勤務する学校図書館では、昆虫図鑑は人気ですが、子どもたちは図鑑ならどれでも良いわけではなく、はっきりと「『GET』を借りたい。」「『LIVE』を借りたい。」と言います。『GET』は子ども向けで、『LIVE』のような調べる図鑑とは異なり、世界を旅して集める図鑑です。外国産の美しい昆虫についても詳しく載っています。導入が漫画でそのキャラクターが案内していくストーリー性が楽しく、勤務先ではとても人気があります。
『驚異の標本箱-昆虫-』は、本書で初めて知った一般向けの本ですが、見たことのない写真と読みごたえある文章に夢中になりました。この3冊の図鑑は、どれも切り口が異なり個性があります。
*1 学研/2021.7、*2 KADOKAWA/2021.5、*3 KADOKAWA/2020.10
(科学読物研究会 吉長聡子)
*科学教育研究協議会(科教協)が編集する月刊誌『理科教室』の2023年9月号から、許可を得て転載したものです。
*出版社によるこの本の紹介記事は、下記のURLからご覧いただけます。
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344986695/

































