水面から立ち上る霧に朝日が当たり、真っ赤に染まった湖面。その中に浮かびあがる羽を広げたシルエット。幻想的な写真からこの本は始まります。
著者の竹田津実さんは九州の出身。獣医師として北海道に赴任し、キタキツネや北海道で出会った動物を観察し、写真に撮ってきました。『ハクチョウ』は〈北国からの動物記〉シリーズの第1巻で、冬の間の隣人としてハクチョウとつきあってきた日々を綴った写真絵本です。
早朝の一番寒い時間の水浴び、どの顏も同じに見えるハクチョウの見分け方、生涯続くペア、大型な鳥であるゆえに離陸と着地にジェット機のような滑走路が必要なこと。著者は年月をかけて少しずつその行動の意味や生態を理解していきます。吹雪の中、長い首を翼の中にすべり込ませてうずくまる姿は、冬の北海道の厳しさ、寒さをリアルに伝えます。著者の人柄がにじみ出るつぶやき交じりの文章も魅力です。
子どもから大人まで、どの世代にもおすすめの本です。残念ながら『ハクチョウ』は現在品切れ中のため、図書館などで借りてください。〈北国からの動物記〉は全10巻。他の巻も一緒に読んで、著者の動物を愛しむ心と言葉に触れてほしいです。
(科学読物研究会 竹内純子)