レイチェル・カーソンの名前は、農薬によって、鳥が死んだり、草木が枯れたりといった自然破壊が起こっていることに対して警鐘を鳴らした『沈黙の春』(新潮文庫)という本を書いたことで有名です。今回、紹介する『センス・オブ・ワンダー』は、彼女の死後に出版された本です。この本の題名を直訳すると、「驚きの感覚」ということになります。
古代ギリシアの哲学者プラトンは、哲学の根源は驚きであると言いました。また、プラトンの弟子のアリストテレスもまた、人間に哲学する衝動を与えたのは驚きであると述べています。わたしたちは未知のことがらに出会うと、驚きの感覚を持ちます。そして、自分自身の無知を自覚します。この自覚が、私たちに、さらに、知りたい、もっと深く理解したいという意欲を起こさせます。それが私たちにとっての、科学をはじめとする知的な営みの根源をなしています。
レイチェルは、早世した姉の子どもを養子にしました。名前は、ロジャーです。レイチェルはロジャーと一緒に、海岸や森の中を散歩をします。散歩をしながら、二人は自然と親しみます。しかし、そればかりでなく、自然の神秘、自然のもつ未知の部分にも触れて、驚異の感覚を体験し、味わいます。
「たとえ、たった一つの星の名前すら知らなくとも、子どもたちといっしょに宇宙のはてしない広さのなかに心を解き放ち、ただよわせるといった体験を共有することはできます。そして、子どもといっしょに宇宙の美しさに酔いながら、いま見ているものがもつ意味に思いをめぐらし、驚嘆することもできるのです。」
「雷のとどろき、風の声、波のくずれる音がなにを語っているのか話し合ってみましょう。
そして、あらゆる生きものたちの声に耳をかたむけてみましょう。子どもたちが、春の夜明けの小鳥たちのコーラスにまったく気づかないまま大人になってしまわないようにと、心から願っています。」
この本は、ゆっくりと読んでください。できれば、声を出して、情景を思い浮かべながら読んでください。きっと、すばらしい体験を共有する時間が持てると思います。
科学読物研究会 根本行雄