北海道の富良野に住む石黒誠さんが雪虫(トドネオオワタムシ)の生態を写真と共に説明している絵本で、昆虫が好きな小学3年生から大人まで楽しめます。
雪虫と言えば、『しろばんば』(井上靖著)冒頭部分の「夕方になると決まって村の子供たちは口々に“しろばんば、しろばんば”と叫びながら(略)夕闇のたちこめ始めた空間を綿くずでも舞っているように浮遊している白い小さい生きものを追いかけて遊んだ」と、切り取られた絵のように語りかけてくる情景描写は有名ですね。また、『ゆきのようせい』(松田奈那子著)では、もうすぐ冬が来ますよとお知らせを運ぶ可愛らしい昆虫として登場します。
本書では、この冬を告げる風物詩として描かれる雪虫の持つ不思議な命のサイクルが解き明かされていきます。トドノネオオワタムシは、わずか1年の間に幾度もの世代交代をし、その間に2種の寄生木(ヤチダモとトドマツ)の間を移動します。晩秋に現われる成虫までは全てメスで、その成虫が生む有性虫で初めてオスが出現し、オスとメスから卵が産まれます。ページをめくるたびに体長3~4ミリの命のリレーの凄さが感じられる一冊です。
科学読物研究会 青木和子