子どもの頃、砂鉄をとって遊んだことのある方は多いと思います。でもその時に「砂鉄とは何か」考えたことはあったでしょうか?
著者の板倉聖宣さんは、小学校の低学年の時に砂鉄集めに夢中になり、そして親が金属職人であったことから<砂鉄=鉄のやすりくず説>を考えます。しかし中学生になって、鉄はすぐさびるのに砂鉄はさびない(赤くならない)こと、町工場などない場所の砂にも砂鉄はあることから疑問を持ち、今度は<砂鉄=隕石説>をたてます。
さらに大人になって、砂鉄が磁鉄鉱の小さい粒だと知り、今度は大きな磁鉄鉱のかたまりが、こわれてできたものだと思い込みます。ところが、日本中のどこの砂にも砂鉄が含まれることを知ると、どこの山にも磁鉄鉱のかたまりがあるのはおかしいと不思議に思い、本を調べます。そして、とうとう長年「ああでもない、こうでもない」と考えていた<砂鉄の正体>が明らかになるのでした。
他にも、<砂鉄やじしゃく>にまつわる面白い話やエピソードなどが盛り込まれ、さらに、方位磁針から地球が巨大な磁石であることをつきとめたギルバートや、<ウェーゲナーの大陸移動説>へと話はすすんでいきます。小さな砂鉄から、壮大な大陸移動説にたどりついた時、「科学っておもしろい!」と思わずにはいられません。
また、「あとがき」で著者は「独創的な考え方を大切にするには、まちがいをおそれないことが大切」、そのために「恥をしのんで、自分のまちがいをみんなの前に公開することにした」と書いています。科学史と科学教育法を研究している、著者ならではの思いが込められています。読者は、著者のまちがいを「おかしい」というより「おもしろい」と思ってしまいますし、「科学のなぞをとく楽しさ」をいっしょに体験して、わくわくしてしまうのではないでしょうか。
著者の板倉さんは、「仮説実験授業」を提唱され、『いたずらはかせのかがくの本』(国土社)等数多くの著書があります。そんな板倉さんの体験(失敗?)談がうれしくもあります。
この本は過去2回出版され(1979年福音館書店、1991年国土社より)絶版となりましたが、読者の根強い支持もあって、2001年仮説社から再刊されました。この本は時代をこえて子どもにも、そして大人にも読んでほしい本です。
(理科教室2008年8月号掲載)
科学読物研究会、木甲斐由紀