表紙、それにつづく数ページにわたってちりばめられた、虹色のガラス細工。形もさまざまで、不思議な美しさ。これらは0.1ミリにもみたない珪藻の殻をならべた顕微鏡写真です。作品をつくった著者の奥修さんは、珪藻の研究者で、このように珪藻をならべた作品(珪藻アート)をつくる人は世界に数人しかいないそうです。
前半は、珪藻についてと作品の制作過程が説明されています。
珪藻は繁殖力が強く、葉緑体を持ち地球上の酸素の4分の1くらいを作ったとも言われていて、また他の生きもののエサにもなっている重要な藻なのだそうです。ガラス質の殻は、微細な凹凸と孔(あな)があり、まるで芸術作品のような形と模様で、多くの人が魅了されてきました。
制作過程にも驚かされます。なにせ相手はミクロの世界。ちょっとしたホコリや汚れも大敵で、ほとんどの作業は顕微鏡を見ながら。細心の注意と、なみなみならぬ努力と工夫・技術が、そこにはありました。中には、珪藻をならべる時に自分の体の「あるもの」を利用するなど、意外なことも。詳細は本を読んで確かめてみてください。
後半の「珪藻アートの世界」では、作品の数々がならんで圧倒されます。珪藻をならべてつくったクリスマスツリーや、同じ作品に光の当て方を変えただけで色が変わる様子など、興味がつきません。
「珪藻美術館」、それは自然がつくった珪藻の精緻で芸術的な造形と、驚異的な著者の努力がおりなす、ミクロの美術館です。
科学読物研究会 木甲斐由紀