私は小学校で理科を子どもたちに教えています。時々、授業で白衣を着ると子どもたちは「先生、科学者みたいだね。」と喜んでくれます。また、フラスコなどのガラス器具の実験も子どもたちが喜びます。それらの器具を使う時、子どもたちは「科学者になったみたいで楽しい」と言います。どうやら子どもたちの科学者のイメージは白衣を着て、ガラス器具を使って薬品を混ぜ、時々爆発を起こす人ということみたいです。
そんな子どもたちがこの本を読むと科学者のイメージが変わるのではないかと思います。
科学者は自分の好きなことを一生懸命やって新しいことを見つける人なんだと気づいてくれた時、子どもたちの科学者のイメージはきっと変わることでしょう。そして、この本では研究者に興味をもった子どもたちに研究者になるためにはどうしたよいのかも教えてくれます。その中で印象深いのは、「研究者になる上で大事なことは、幅広い知識を身に付けて、自分の興味を広げてあげることです。」ということばです。小学生はそれぞれの学問のつながりがわからず、自分の苦手な教科は勉強したがらないものです。そんな子どもたちにこのことばを教えてあげたいなと思いました。もちろん、研究者になるだけではなく、他の職業につくときにも大切なことばとして。
この本は研究者の方のことだけではなく、研究の楽しさも教えてくれてくれるものです。この本を読み終わっての私の感想は、研究っておもしろいなあでした。授業の中で子どもたちに「知らないことを調べていくことはゲームや小説と似ているよ」と話すことがあります。この本では著者の郡司さんがキリンについて新しい発見するまでの過程がとても丁寧に描かれています。キリンの研究をするために、どのように行動し、その後どのように研究の種を見つけ、その種をどのように育て、新しい発見につなげていったかがよくわかりました。
研究はまずは自分の好きなことは何なのかをはっきりさせることから始まります。郡司さんの場合は自分の好きなキリンを研究したいと思い、様々な人に話を聞きながら、研究するための手立てを探っていきます。そして、解剖学の先生と出会い、キリンの解剖学をスタートさせます。そして、キリンの首のつくりを解剖を通してあきらかにしていきます。最初は大学に入って研究することを探し、解剖学と出会い、まずは解体して筋肉をじっくり観察していく中で、首のつくりの謎に望んでいく。よくできた小説のようで読んでいて楽しくなります。
読んでいく中で、キリンについての知識もどんどん増えていきます。キリンの実際の大きさはどれくらいなのか、キリンの種類は、キリンと人間の骨格の共通点と違い、そしてキリンの首のつくりについて。様々な筋肉や骨の名前も出てきて、本当に動物の体はうまくできているんだなあと実感します。これを読むと、動物園に行ってキリンの動きをじっくり見たくなります。この本を読む以前とは違った見方ができておもしろそうです。著者も「読み終わった後に動物園にキリンに会いにいきたいなあ!と思ってくれたらうれしいなあ」と書かれています。きっとこの本を読んだ多くの子どもが動物園に行って、キリンをもっと見てみたいという気持ちになるのではないかと思います。
この本ではあまり普段の生活ではなじみがない解剖学についても詳しく書かれています。解剖というと死体と向き合うこわいイメージがあるかもしれませんが、郡司さんは「解剖することでしかその動物の体の構造を知ることはできません。動物たちの死をむだにせずに1つでも多くの知識を得ることが亡くなってしまった動物たちにできるただ一つのことだと私は思います。」と書かれています。動物に対しての畏敬の念を感じるとともに、解剖学者としての郡司さんの決意が感じられます。解剖をすることで、生物の謎が様々に解き明かされる。とても大切な学問なのだと実感しました。
このように様々なことを教えてくれるこの本をぜひ子どもたちに読んでもらい、世界を広げてもらいたいと私は思います。
林田真治(科学読物研究会)