表紙には、ちょっとユーモラスな顔の魚たち。最初のページには、人類が初めて見た南極の魚のスケッチ。170年前に航行中の船の甲板に打ち上げられた魚を、船医がスケッチしたものとのこと。その時の興奮が伝わってくるようで、こちらまでわくわくしてくる。
それまで、温帯の魚なら一瞬で凍ってしまうほど冷たい海には魚はいないと思われていた。その後、実はたくさんの魚がいることがわかり研究されてきた。南極海の魚の多くは、普通の魚とは違った特徴を持っている。「血液が凍るのを防ぐ物質を持っている」ことはなんとなく予想できたが、「浮袋がない」にはびっくりだ。どうやって水中で泳ぐの?と不思議に思ったら、海底で暮らしているのだ。約2500万年前、南極がゆっくりと冷えて氷で覆われた大陸に変わっていくのに合わせて、魚たちは体を変えていった。無色透明の血、平たく伸びた口、獲物を感知するセンサーなども、暗い海底での暮らしに適応したもの。一部の魚は失った浮袋の代わりに新たな方法で海底を離れることに成功したなど、その進化には驚くばかりだ。(脂がのっていて美味しい「メロ」という名で売られている魚のその脂は、なんと浮袋のかわりにするために身につけたものだった。)
体を変え厳しい環境に適応したことによって、環境から身を守られているという南極の魚たち。詳細に描かれた絵や解説を見ているだけでも面白いが、その生態や進化の過程などの話もとても興味深い。
科学読物研究会 古屋ちえり