これは、「次々と怪獣が現れる冒険物語を通して証明を学ぶ」本です。証明とは、まず試行錯誤すること。試行錯誤とはやみくもにやってみることではなく、原因(前提)から結果(結論)を導き出す道筋をいくつも考えることと著者は言います。
この本では4人の子どもたちが、怪獣という形で表れる「問題」は何なのかを考え、自分たちが手にしている条件の中からその問題を解決する手段を考えていきます。0旅立ちから13の世界までの数字がついた、数の世界らしいウィットが感じられる章立てで、1の世界では累乗、2の世界では多面体と積算、というふうに算数・数学が材料に使われていきます。
著者は前書きで「算数・数学は日常生活には無関係という誤解を解くこと」が本書の目的の一つと語っていますが、日常生活で起こるいろいろな問題を解決していこうとするとき、条件を整理してそこから自分はどのように考えるのか、という論理的態度を算数・数学で育てようという本です。
4人はそれぞれの個性を発揮しながら、助け合って冒険をしていきます。読者は、登場人物に感情移入しながら一緒に計算や証明をしてみて楽しみ、時にはもっとうまい考え方がないかと、仮想の仲間にもなってみたくなります。このようにして読み進めていくにつれて、どのように問題を解決したら良いかを他者に説明すること、解決方法として優れていることを説明するために客観的な論拠を示しながら、筋道だてて話していくことといった論述力がトレーニングされていきます。
各章20ページ前後の短い構成が、物語にスピード感を与えていますが、1章ずつ切り取って算数・数学の言語活動の材料にもぴったりです。各章のエピソードをまねたり、身近な出来事から、自分の算数・数学の文章題を作ってみましょう。その解法をいろいろ考えたり、発表しあったりするうちに、考えが深まる体験をして、「考えるということの面白さ」にわくわくします。
本書は文春ネスコから出されたものに大幅な改訂をほどこして、子どもが一人で読み進むことができるよう工夫されています。文春ネスコ版では、先生や親などが子どもたちと一緒に読むスタイルでした。そのため、大人のための手引きが、各章の後ろについています。図書館などで手に取る機会があればこちらも覗いてみると役に立ちます。
科学読物研究会 土井美香子